相続税について、何となくはわかっても、「何が控除対象になるのか」など詳しくはわからない方も多いのではないでしょうか。 

相続税には、マイナスの資産や必要経費など控除される項目が多くあるほか、配偶者控除など相続税法特有の控除もあります。この記事では、相続税の控除対象になるものを、例を挙げながら解説していきます。 

本来は支払わなくてよい分まで納税することにならないよう、控除できるものを押さえておくことが重要です。

相続税の控除とは?

まず、相続税は基本的に、プラスの財産から負債などマイナスの財産を控除してプラスの財産が残った場合、その額に応じてかかります。

しかし、プラスの財産があればすべてのケースで相続税がかかるわけではありません。相続税には各控除があり、その活用次第では相続税額を抑えることも可能です。また、控除額が相続対象の財産の総額を上回った場合には「プラスの財産がない」とみなされ、相続税の課税対象から外れます。

控除には、必ず控除されるもののほか、該当する相続人や状況に応じて控除されるものもあります。それぞれに該当する控除を確認して早めに対策を立てておけば、控除をうまく活用して相続税対策に役立てられます。

7つの相続税控除制度

相続税の控除は7種類存在します。7種類を以下の表にまとめましたので、ご覧ください。

控除の種類

対象

内容

基礎控除

すべての相続

一定の計算式の額を控除

配偶者控除

相続人である配偶者

相続財産1億6,000万円まで控除

贈与税額控除

贈与税を納めた受贈者

納めた贈与税分に応じ控除

未成年者控除

未成年の相続人

相続開始時の年齢に応じ控除

障害者控除

障害を持つ相続人

障害の程度に応じ控除

相次相続控除

短期間で相続が起きた相続人

一定の計算式に従い控除

外国税額控除

外国で相続税がかかった場合

外国で納めた税額等に応じ控除

ここからは、それぞれの特徴を解説していきます。

1.基礎控除

基礎控除は、相続が発生したときは必ず使用できるものです。相続財産の総額が基礎控除以下であれば相続税がかからないほか、相続税の申告自体必要ありません。

基礎控除には、決まった計算式があります。計算には、法定相続人の人数の情報が必要です。計算式は以下の通りです。 

3,000万円+(法定相続人の人数×600万円)

上記計算式は、相続税がかかるかどうかの判断にも使えるため、覚えておくことをおすすめします。 

実例をあげてみましょう。 

例)お父様が亡くなられて、法定相続人がお母様とお子様2名の合計3名の場合の基礎控除額 

3,000万円+(3×600万円)=3,000万円+1,800万円=4,800万円

同じケースで、お母様が既に亡くなっている場合、法定相続人はお子様2名だけになり以下のようになります。 

3,000万円+(2×600万円)=3,000万円+1,200万円=4,200万円

相続税がかかる場合、【相続財産の総額-基礎控除額】で求められた金額を元に相続税の計算がされます。

法定相続人の中に相続放棄をした人がいても、基礎控除の計算上は法定相続人として人数に含めて計算できます。

2.配偶者控除

配偶者が相続人になった場合、配偶者控除が受けられます。配偶者控除は、「配偶者の法定相続分」または「1億6,000万円」のうち、どちらか多い額が控除されます。

配偶者の主な法定相続分は、次の表の通りです。

相続人の構成

法定相続分

被相続人の配偶者と子

2分の1

被相続人の配偶者と親

3分の2

被相続人の配偶者と兄弟姉妹

4分の3

つまり、配偶者と子が相続人の場合、被相続人の相続財産が3億2,000万円以内であれば1億6,000万円までが控除され、3億2,000万円を超えていれば法定相続分の財産までが控除されます。

控除を受けられるのは、相続が発生した時点で配偶者となっていた人に限り、離婚した夫や妻、内縁の夫や妻は対象外です。また、基本的に相続税の申告期限(亡くなった日の翌日から10か月以内)に遺産分割が確定していなければなりません。

申告期限内に確定できなかった場合にも、申告期限後3年以内の分割見込書を出し、遺産分割確定後に更正の請求をした場合は控除が認められます。

3.贈与税額控除

相続が発生する前の3年間に贈与した金額分については、相続税の対象財産に含めて計算しなければなりません。しかし、対象となる贈与について贈与税を支払っている場合、支払った贈与税分は相続税の控除が受けられます。これは、財産を受けた行為に対して贈与税と相続税を二重で課税することを避けるためです。

控除を受けられるのは、相続や遺贈によって財産を得た人のうち、相続が発生した日から3年の間に被相続人から贈与されて、贈与税を納めた人です。この贈与税額控除は、遺贈によって財産を得た人も対象となり、法定相続人でなくても受けられます。

逆に、法定相続人であっても、相続の段階で財産を取得しない人には贈与税額控除の適用がありません。控除されるのは、3年以内の贈与として相続財産に加算されたものに対して支払った贈与税分に限られます。

4.未成年者控除

未成年の法定相続人がいる場合、その未成年者にかかる相続税は年齢に応じて控除されます。未成年者控除の控除額の計算式は、以下の通りです。

(18歳-相続が発生したときの年齢)×10万円

相続が発生したときの年齢は、月齢は切り捨てて計算されます。たとえば、10歳1か月も10歳11か月も、計算式では10歳として計算されます。

もしも相続人が相続発生時に15歳3か月だった場合の控除額は
(18歳-15歳)×10万円=30万円
となります。

未成年者控除が受けられる人の要件は、以下の通りです。

  • ・相続財産を受け取った法定相続人である
  • ・相続発生時に18歳未満である
  • ・相続発生時に日本国内に住所がある

未成年者控除があるのは、未成年者の相続人は被相続人に養育されていたケースがほとんどで、この先成年に達するまでの養育費が必要となることを考慮してのものです

5.障害者控除

障害者が相続人となった場合、障害の程度に応じて相続税額が控除されます。具体的には、一般障害と特別障害に分けて計算されます。計算式は次の通りです。 

一般障害の場合
(85歳‐相続発生時の年齢)×10万円=控除額 

特別障害の場合
(85歳‐相続発生時の年齢)×20万円=控除額

たとえば、50歳の一般障害者の場合は、(85‐50)×10=350万円が控除されます。

障害者控除を受けられる要件は以下の通りです。 

  • ・相続財産を受け取った法定相続人である
  • ・相続発生時に障害者である
  • ・相続発生時に日本国内に住所がある

障害を持つ方は、健常者と比較して医療費などの負担が大きくなる傾向があります。そこで、障害を持った方の今後の生活を保障する目的で設けられたのが障害者控除です。障害を持つのは相続人であり、被相続人の障害の有無は関係ありません。 

6.相次相続控除

相次いで相続が発生すると、短時間で想像税の支払いが相次ぎ、相続税の負担が大きくなることが考えられます。そこで、今回の相続が発生する前10年の間に、今回亡くなった被相続人が相続税を払っていた場合に税額が控除されるのが相次相続控除です。この控除によって、短期間の間に起きた相続による大きな負担が軽減されるよう調整されます。

相次相続控除を受けられるのは、次の条件を満たす相続人です。 

  • ・今回発生した相続の相続人であり、かつ相続放棄をしていない
  • ・今回の相続発生の前10年以内に発生した相続によって、今回亡くなった被相続人が財産を取得して、取得した財産について被相続人に対して相続税が課された

相次相続控除の計算式は、簡単に表せば以下の通りです。

今回の被相続人が10年以内に発生した相続で納めた相続税額×(10年‐経過した年数)×10%

計算方法の詳細は複雑になるため、専門家に相談することをおすすめします。 

7.外国税額控除

亡くなった被相続人の相続財産に海外の資産が含まれていて、その資産に対して日本の相続税にあたる税金を納めていた場合には、二重で納税することを避けるために税額が控除されます。この控除が外国税額控除です。控除を受けられるのは、外国にある資産を相続して、その国で相続税にあたる税金を納めている人です。

具体的には、下記のうち少ないほうの金額が控除されます。 

  • ・相続税にあたる税金として、該当する国に納めた税額
  • ・日本の相続税額×該当する国の財産評価額/相続人が相続した財産の評価額の合計

 なお、外国で納めた税額を円に換算するレートは、原則として納付すべき日の値が使用されます。そのほか、国内から送金する日のレートを使用することも容認されていますが、送金が遅延している場合など、認められないこともあるため要注意です。

外国税額控除の計算式も、相次相続と同じく複雑なものです。詳細は専門家に相談することをおすすめします。

相続税で課税されないもの

相続税には、課税されない項目もあります。墓地や仏壇・仏具、祭具などの財産は基本的に課税されません。ただし、純金製のものなどは課税されることもあります。また、生命保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があり、枠内の保険金には相続税は課税されません。

死亡退職金にも非課税枠があります。生命保険と同じく「500万円×法定相続人の数」で計算された額は非課税です。学術や慈善・宗教などの公益事業を、相続財産を使用して行う場合、相続税が非課税になります。しかし、相続財産を取得してから2年経過しても公益事業に使用していないときは、相続税が課せられます。

個人で経営する盲学校や、ろう学校・養護学校や幼稚園の財産を相続した場合、相続人が継続して事業を行えば、一定条件のもとで相続税は非課税です。そのほか、地方公共団体の条例で心身障害者共済制度の給付金を受ける権利を相続した場合、その権利に対して相続税は課税されません。

控除の対象とならないものもある

基本的に、債務はプラスの財産と相殺されるため、相続税の対象とはなりません。この控除のことを債務控除と呼びます。しかし、債務でも控除の対象とならないものもあるため要注意です。

債務者が債務を履行できなかったときに代わりに履行する保証債務は、将来必ず履行しなければならないものではありません。そのため、基本的に債務控除の対象から外れます。住宅ローンを組んだ際に付けられた団体信用保険は、債務者である被相続人が亡くなった際に発生する保険金によって債務が補填されるため、控除の対象にはなりません。

未払費用では、被相続人が亡くなる前に購入していた墓地や仏壇などの未払金は控除対象外です。また、遺産分割決定前の相続財産を管理する際の費用や遺言執行の費用は、相続人が負担しなければならず、控除の対象外です。葬儀費用では、香典返しや生花、位牌や仏壇などの購入費用、初七日や四十九日など法事の費用は控除の対象にはなりません。

配偶者控除は手厚いが注意が必要

前述の通り、配偶者控除は、配偶者が相続した際に1億6,000万円まで相続税が非課税になる制度です。法定相続分が1億6,000万円を超える場合は法定相続分が控除され、今回の相続についてのみ考えれば大きな控除額となります。

しかし、いずれその配偶者の相続が発生した場合には、配偶者固有の資産に加え、今回の相続で取得した財産分も相続税の対象になります。相続税は、相続財産が多ければそれだけ税率が高くなっていくものです。さらに、次の相続で配偶者が亡くなるときは、相続人の数は基本的に今回の相続より少なくとも1名は減ります。

そのため、相続税の基礎控除は少なくとも600万円分少なくなり、今回と次回で納付する相続税を合わせると、税額がむしろ高くなることも十分あり得ます。配偶者控除を利用する際は、現状だけで判断せず慎重に検討しなければなりません。今回の相続だけでなく、いずれ起きる次の相続も考えて、手厚い注意のもとで遺産分割を行う必要があります。

まとめ

相続税の控除は7種類あり、それぞれ対象者などが異なります。そこで、控除の種類や内容を理解して早い段階で対策を行えば、有効利用して課税額を抑えることも可能です。しかし、控除の対象となるものはすぐにわかるものとわかりづらいものがあります。

控除の計算式など複雑なものも多く、安易に判断すると逆効果になる可能性もあり要注意です。また、控除の対象から外れるものもあり、判断が難しいケースもあるでしょう。控除の利用など判断に迷う場合は、自分で判断せず税務署や税理士に確認することをおすすめします。

ANAの住まいでは、無料個別相談なども行っています。有効活用して、来るべき相続に備えて対策を立てておきましょう。

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