不動産を売却して利益が出た場合、「譲渡所得税」という税金を納める必要があります。 

不動産の売却を検討している方は、事前に譲渡所得税の金額を計算しておかなければ損してしまう可能性もあります。しかし「どのような計算式を使用したらいいかわからない」という方も多いのではないでしょうか。 

本記事では譲渡所得税の概要と計算方法について解説します。最後には税額を抑えられる特例についても紹介しますので、不動産の売却価格設定の参考にしてみてください。 

それでは実際に、自宅を売却した場合に譲渡所得税を計算する流れを見ていきましょう。

ここでは木造一戸建て住宅とマンションの2つのパターンについて、具体的な数字を使った計算例を紹介します。

譲渡所得税とは

譲渡所得税は確定申告を行うことで納付する必要があるため、どのようなときに発生する税金なのかを知っておく必要があります。ここでは譲渡所得税の概要と計算式・税率について詳しく解説します。

譲渡所得税の概要

譲渡所得税は、不動産を売却したことにより利益が出た場合に納める税金で、復興特別所得税を含む所得税と住民税という2つの税金を合わせた総称です。 

不動産売却による譲渡所得税にはさまざまな税額控除が適用されるほか、損益通算の対象とすることも可能です。不動産を売却した翌年に確定申告を行うことで税額を確定・納付しますが、希望する利益とするためには、売却利益や税額計算を事前に行っておくことが重要です。 

事前に正しい方法で税額計算を行い、適用される税額控除の要件なども確認しておかなければ、損をしてしまう可能性もあるため注意しましょう。

譲渡所得税の計算式

譲渡所得税の計算では、まずは譲渡所得の金額を求め、そこに税額をかけることで税額を出します。用いる計算式は下記の通りです。 

譲渡所得=不動産の売却価格-(取得費+譲渡費用)
譲渡所得税=譲渡所得×税率

「取得費」は不動産を取得(購入)する際にかかった費用、「譲渡費用」は不動産を売却する際にかかった費用です。 

譲渡所得税は不動産の保有期間と取得費用によって、変動するという点が重要なポイントになります。

保有期間によって税率が異なる

不動産の売却により発生する譲渡所得にかかる税率は、売却対象の不動産を何年保有していたかにより変動します。

売却した年の1月1日時点での不動産の保有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」、5年を超える場合は「長期譲渡所得」と呼び、それぞれ下記の表の税率が適用されます。 

 

保有年数

税率

短期譲渡所得

5年以下

所得税:30.63%*

住民税:9%

長期譲渡所得

5年超え

所得税:15.315%*

住民税:5%

復興特別所得税2.1%を含む

不動産を売却した場合の譲渡所得税は、保有期間5年を境に15%以上差が出ることがわかります。

取得費の求め方

譲渡所得税の計算の際に用いる「取得費」は、不動産の「購入費」として考えている方もおおくいらっしゃるのではないでしょうか。しかし譲渡所得税を正確に計算するためには、「取得費」にどのような費用が含まれるかを細かく知っておく必要があります。

取得費に含まれるもの

取得費に含まれる項目は下記にまとめました。

購入代金

土地や建物の売買金額

建築代金

建物を新築した場合にかかった代金

仲介手数料

不動産会社に支払う手数料

設備費・改良費

リフォームなどを行った場合にかかった費用

登録免許税

取得した不動産の登記手続きの際にかかる費用

不動産取得税

所有権移転登記や抵当権抹消登記などの手続きにかかる費用

印紙税

不動産売買契約書に貼る印紙の代金

司法書士報酬

登記手続きを司法書士に依頼した場合に支払う報酬

立ち退き料

借主のいる土地や建物を購入した際に、借主を立ち退かせるために支払った費用

造成費用

購入した土地の埋立て・土盛り・地ならしのためにかかった費用

測量費

購入した土地の測量にかかった費用

訴訟費用

所有権を確保するための訴訟にかかった費用

建物の取り壊し費用

取り壊すことを前提とした建物付の土地を購入した際の、建物の購入代金と取り壊しの費用

建物の取得費は年々下がる

不動産の取得費用を算出する際に注意しなければならないのが、取得してから年数が経過しても資産価値が変わらない土地と違い、建物は年数が経過するにつれて資産価値が低下していくということです。売却時点での建物の正確な価値を算出するためには、建物の取得から売却までの期間に減少した分の価値を差し引く必要があります。この建物の資産価値の減少を費用として計上することを「減価償却」、差し引かれた資産価値の減少分を「減価償却費」と呼びます。 

減価償却費の計算方法には「定額法」と「定率法」という2つの種類がありますが、一般的には毎年決まった割合で費用計上する「定額法」で計算します。 

定額法による減価償却費の計算では下記の計算式を使用します。 

減価償却費=建物購入代金×0.9×償却率×経過年数

建物は材質や構造ごとに法定耐用年数(資産価値がゼロになる年数)が定められており、減価償却費の計算時に使用する償却率も異なります。 

非事業用(居住用)建物の法定耐用年数と償却率は下記の通りです。 

構造

法定耐用年数

償却率

木造

33年

0.031%

木造モルタル

30年

0.034%

軽量鉄骨(3mm以下)

28年

0.036%

軽量鉄骨(3mm超、4mm以下)

40年

0.025%

軽量鉄骨(4mm超)

51年

0.020%

鉄筋コンクリート造

70年

0.015%

取得費が分からない場合

土地や建物といった不動産は、何代にも渡り受け継がれているものや購入時期が古いものもあります。具体的な取得費がわからない場合には、対象不動産の売却金額の5%に相当する金額を取得費とすることが可能です。 

また、実際の取得費が売却金額の5%に相当する金額を下回っている場合でも、売却金額の5%相当額を取得費として計算してよいと定められています。

譲渡所得税の計算例100

それでは実際に、自宅を売却した場合に譲渡所得税がどれくらいの金額になるかを見ていきましょう。ここでは木造の一戸建て住宅を売却した場合とマンションを売却した場合の2つのパターンについて、具体的な数字を使った計算例を紹介します。

木造住宅の場合

まずは築10年の木造一戸建てを売却した場合の譲渡所得税を計算してみましょう。例としてあげる物件は下記の通りです。

構造

木造

築年数

10年

購入費用

7,000万円(土地4,000万円+建物3,000万円)

売却金額

5,000万円

取得費

400万円

譲渡費用

500万円

建物の減価償却費=建物の購入費用×0.9×償却率×経過年数
        =3,000万円×0.9×0.031×10年
        =837万円

建物の取得費=3,000万円-837万円
      =2,163万円 

譲渡所得=売却費-(取得費+譲渡費用)
    =5,000万円-(4,000万円+2,163万円+400万円+500万円
    =-2,063万円 

譲渡所得税は譲渡所得がプラスのときのみ納付する税金のため、このケースでは譲渡所得税は課税されません。

マンションの場合

次に10年間住んだ鉄筋コンクリート造のマンションを売却した場合です。例としてあげる物件の条件は下記の通りです。 

構造

鉄筋コンクリート造

専有面積

50m2

購入時期

2013年3月

売却時期

2023年3月

購入金額

7,000万円(土地4,000万円+建物3,000万円)

売却金額

8,000万円

取得費

400万円

譲渡費用

500万円

建物の減価償却費=建物購入価格×0.9×償却率×経過年数
        =3,000万円×0.9×0.015×10年
        =405万円

建物の取得費=3,000万円-405万円
      =2,595万円

譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)
    =8,000万円-(4,000万円+2,595万円+400万円+500万円)
    =505万円

譲渡所得税=課税譲渡所得×税率
     =505万円×(15.315%+5%)
     =102万9,075円 

このケースではマンションを売却したことにより利益が発生しているため、譲渡所得税が課税されることになります。 

譲渡所得税の特例

売却する不動産の用途や売却先などによっては、譲渡所得税の税額を抑えられる特例が適用されることがあります。適用期間が限定されている特例も多くあるため、土地や建物の売却を検討していらっしゃる方は早めにチェックしておくことをおすすめします。

5,000万円の特別控除

所有する土地や建物を、国や公共事業による活用のために売却した場合(土地収用)に受けられるのが5,000万円の特別控除です。この場合の譲渡所得税の計算は下記のように行います。 

土地収用による譲渡所得=補償金-取得費-譲渡費用-5,000万円

 上記の「補償金」は、国や公共事業から不動産の所有者に対して支払われるお金のことです。不動産の取得費用と譲渡費用から最大5,000万円を差し引くことで、譲渡所得を少なくすることが可能になります。

3,000万円の特別控除

マイホーム(居住用住宅)を売却した場合には、所有期間の年数に関係なく、譲渡所得から最大で3,000万円を控除できるという特例があります。これを「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と呼び、下記の計算式で譲渡所得を求めます。 

譲渡所得=不動産の売却価格-取得費-譲渡費用-3,000万円

なお3,000万円の特別控除が適用されるのは、対象の不動産に居住しなくなってから3年以内に売却した場合という点には注意しましょう。

2,000万円の特別控除

国土交通省が推進する土地区画整理事業などのために土地を売却した場合は、譲渡所得から2,000万円を控除できるという特例もあります。 

2,000万円の特別控除の特例が適用されるのは、租税特別土地法に定められた施行者(国や地方公共団体など)による事業であり、なおかつ施行区域が30ヘクタール以上(住宅数を重点的に増加させると計画された区域内では15ヘクタール以上)の場合です。

1,500万円の特別控除

特定住宅造成事業のために土地や建物を売却した場合、譲渡所得から最大で1,500万円を控除できるという特例があります。 

特別控除の適用のためには事業が下記の審査基準を満たしている必要があるという点に注意が必要です。 

  • ・プロジェクトの規模が5ヘクタール以上である
  • ・住宅地の造成プロジェクトである
  • ・住宅地が公募により分譲されること
  • ・住宅地1区画あたりの敷地面積にゆとりがあること 

なお1,500万円の特別控除の適用期限は2023年12月31日です(2023年3月時点)。 

1,000万円の特別控除

2009年に取得した土地を2015年以降に売却、または2010年に取得した土地を2016年以降に売却した場合には、譲渡所得の金額から1,000万円を控除できる特別控除もあります。 

この1,000万円の特別控除は、親子や夫婦といった特別な間柄から取得した土地や、相続・遺贈・贈与などにより取得した土地は適用対象にならず、あくまでも所有者自身が売買により購入した土地である必要があります。

800万円の特別控除

農用地区域内の農地を意欲ある農業者に対して売却した場合、譲渡所得から800万円を控除できるのが農地の譲渡にかかる特例です。 

本事業の適用を受けられるのは、下記の3つのうちいずれかの方法により土地を譲渡した場合に限ります。 

  • ・農業委員会によるあっせんを受けた譲渡
  • ・農地中間管理機構への譲渡
  • ・農用地利用集積計画に基づいた譲渡

100万円の控除

未利用地・低利用地を売却した際に下記の条件を満たしている場合、譲渡所得から最大で100万円控除できる特例が適用されます。

  • ・譲渡年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていること
  • ・譲渡物件が都市計画区域内にあること
  • ・2020年7月1日から2025年12月31日*の間に売却された土地であること
  • ・売却金額が土地と建物を合わせて500万円以下(2023年1月以降に売却された一部の土地については800万円以下*)であること
  • *2023年度の税制改正による

買換え特例

マイホームを売って得られた売却金額で新しいマイホームを購入した場合に適用されるのが「特定の居住用財産の買い替えの特例」です。 

買換えの特例が適用されると、売却した年の課税は繰り延べられ、将来再度マイホームを売却するときに課税されることになります。 

買換え特例が適用される主な条件は下記の通りです。

  • ・マイホームを2023年12月31日までに売却し、代わりのマイホームを購入した場合
  • ・マイホームに住まなくなった日から3年経過する日が属する年の、12月31日までに売却していること

まとめ

譲渡所得税は土地や建物・マンションを売却して利益が発生した場合に課税されますが、不動産の取得費用や譲渡費用、特別控除の適用などが複雑に絡みあっているため、初めて計算する方にとって難しく感じられることも少なくありません。 

譲渡所得税の計算が正しく行えていないと、納めるべき税金を納められなかったり逆に多く納めすぎてしまったりするケースもあります。不動産は取引金額が大きい分損する金額も大きくなってしまうため、税額計算の際には税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。 

すまいるパスでは譲渡所得税をはじめとした、不動産に関する税金についての無料相談を実施しています。是非お気軽にお問い合わせください。

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