ご家族の誰かが亡くなったとき、課税対象となる相続財産が一定以上あると、財産を受け継ぐ相続人は相続税を支払わなければなりません。そこで、亡くなった直後はもちろんですが、できれば元気なうちから財産の把握をして、相続税の対策をしておきたいものです。 

それでは、相続税の課税対象になる財産と対象にならない財産はどのようにして見分ければ良いのでしょうか。この記事では、相続税の課税対象となる財産の基礎知識を解説します。 

相続税の課税対象財産とは?

ご家族が亡くなったとき、その被相続人となったご家族の権利や義務・債権や債務などは相続人が受け継ぎます。現金や銀行預金・有価証券、土地や建物などの不動産、みなし相続財産と呼ばれる死亡退職金や生命保険金などが課税対象財産の主な例です。 

また、被相続人が亡くなる以前3年のあいだに贈与された財産についても、課税対象の財産として計算されます。 

負債などのマイナスの財産があった場合、マイナス分は課税対象の財産額から差し引いて計算されます。お墓や仏壇などは非課税財産と呼ばれ、相続税の課税対象にはなりません。 

1.本来の相続財産

被相続人が亡くなったときに所持していた財産は、相続税の課税対象となります。具体的には、手元や自宅などにあった現金に加え、預貯金や株式などの有価証券、土地や建物などの不動産、宝石類など目に見える財産がまずはあげられます。 

それ以外に、特許権や著作権、貸付金などのように、経済的な価値があって金銭として見積もることができる財産も本来の相続財産とされ、課税の対象です。上記のような経済的価値があるものを相続や遺贈によって取得した場合、相続税が課税されます。 

また、贈与された財産の中でも、相続財産として課税対象になる場合があるため要注意です。 

まずは、被相続人が亡くなる以前3年のあいだに贈与を受けていた場合、該当する財産分は相続財産として課税対象となります。生前贈与を受けた際に相続時精算課税制度を選択した場合も、贈与を受けた分の財産は相続税の課税対象とされ、亡くなったときに所持していた財産に加えられます。

2. みなし相続財産にも相続税がかかる

みなし相続財産とは、被相続人が亡くなったとき純粋に所持していた財産ではないため遺産分割の対象とはならないものの、相続税の課税対象として財産に加えられるものを指します。被相続人がもたらした財産であるという性質上、本来の相続財産に加えて課税対象とみなされるのです。 

具体的には、被相続人が保険料や掛け金を負担していた死亡保険金や保険契約、定期金、退職手当金などの財産です。そのほか、被相続人が受給していた年金や退職金年金の一時金や年金、遺族が請求して受け取る高額医療費や傷病手当金なども、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。また、贈与した教育資金や結婚資金などのうち一定のものも、みなし相続財産に加えられます。 

3.マイナスの財産も相続財産

相続税の課税対象となるのはプラスの財産だけではありません。マイナスの財産も課税対象財産に加えられるため、計算の際には注意が必要です。 

相続人は、財産を相続する際にはプラスの財産もマイナスの財産もすべて相続しなければなりません。相続税の課税対象として計算するだけでなく、全体の財産が差し引きでマイナスになった場合など、状況によってはそもそも相続すべきか否かも確認しておく必要があります。 

まずマイナスの財産としてあげられるのが、借金です。通常の借入金に加えて、ローンやクレジットカードの未決済のものも借金に加えられます。また、税金や水光熱費・医療費などの未払金も対象です。 

次に、被相続人が保証人となっていたケースもマイナスの財産として計算されることがあります。このとき、計算できるのは支払いが確定している場合に限られ、支払金額が確定していないものは対象外です。 

そのほか、葬式の費用もマイナスの財産として計上可能です。 

課税対象外となる非課税財産とは

金銭的価値のある相続財産の中にも、相続税の課税対象外とされるものがあります。 

まずあげられるのが、墓石や仏壇、祭具などです。亡くなった被相続人を大切に思う家族の気持ちを考え、必要な出費と判断されての措置です。ただし、仏壇や仏具・祭具などのうち、純金製のものや骨董としての価値があるもの、投資目的のものなどは課税対象外と認められないケースもあります。 

次に、死亡保険金のうち非課税枠にあたる部分については非課税財産とされます。具体的には、法定相続人の人数×500万円までの生命保険金は非課税です。この計算式の値を超えた額については課税の対象となります。 

また、死亡退職金も同様に、法定相続人の人数×500万円までの金額が非課税です。そのほか、一定の要件に該当する公益事業や幼稚園事業の財産を取得した場合や、国や特定の公益法人に寄付した場合、心身障害者扶養共済制度における給付金受給権なども非課税財産となり、相続税の課税対象から外れます。 

相続財産を調べる方法

相続財産は、市区町村役場や税務署などでは調べてもらえません。相続人が自身で調べていかなければならず、財産によっては大変な作業となります。ご家族が健在であれば元気なうちに、せめて大まかな内容や明細の在処など、財産の内容を聞いておけば相続時に役立つでしょう。 

しかし、既に亡くなっている場合には、被相続人の所有していた相続財産をどのように調べれば良いのでしょうか。 

相続財産を調べるためには、いくつかの方法があります。財産の内容に応じた方法があり、場合によっては専門家に依頼することも検討していきましょう。相続財産をプラスの財産とマイナスの財産に分類し、それぞれを調べる方法をここから具体的に解説していきます。 

1. プラスの財産を調べるには

プラスの財産は、積極財産と呼ばれます。土地や建物などの不動産に加え、株式や証券、銀行の預貯金なども積極財産の対象です。 

不動産を調べるためには、被相続人宛に届けられた固定資産税の課税明細書があれば手軽に調べられるでしょう。固定資産税課税明細書がないときや一定額以下の不動産があるときは、不動産がある市区町村役場で名寄帳を取得します。 

預貯金など、金融機関に預けてある財産を調べる際には、通帳やキャッシュカードがあれば調べられます。通帳やキャッシュカードが見つからないときは、ネットバンクを利用していた可能性もあるため確認が必要です。メールが見られる状態であれば、メールに金融機関から連絡が来ていないか確認するとわかるケースがあります。 

金融機関が判明したあとは、窓口に行くなどして該当する金融機関に直接問い合わせをし、財産内容を調べられます。問い合わせた段階で該当の口座は凍結されるため要注意です。 

2. マイナスの財産を調べるには

被相続人に債務があった場合、相続人は返済の義務が生じるため慎重に調査しなければなりません。負債などマイナスの財産は、消極財産と呼ばれます。負債は本人が隠しているケースも多く、表面に出にくい点が特徴です。これらの消極財産を調べるためには、いくつかの機関に問い合わせを行う方法があります。主な機関は以下の通りです。 

  • ・CIC
  • ・JICC(日本信用情報機構)
  • ・銀行協会
  • ・KSC(個人信用情報センター) 

調査機関によって、保有する情報が異なるケースも多く存在します。そのため、消極財産を慎重に調べるためには、これらの機関すべてで調査を依頼することをおすすめします。窓口だけでなく、郵送やWebサイトからの申請も可能です。 

金融機関や消費者金融などへの負債であれば上記の方法によって調査できますが、個人間の負債や保証人になっているケースなどは調査の方法がありません。多額の負債が不透明となっている場合には、相続放棄や限定承認などの検討も必要です。 

相続財産別の相続方法

家族などが亡くなって相続人となったとき、相続の方法は主に3種類あります。 

単純承認は、被相続人が所有していた相続財産すべてを相続する方法です。プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含めて相続しなければならない点は注意しなければなりません。 

限定承認は、マイナスの財産の返済をプラスの財産の範囲内で行って相続する方法です。 

相続放棄は、プラスマイナスに関わらず、被相続人の財産すべてを放棄する方法です。 

それぞれ詳しく解説していきます。 

1. プラスの財産が多い場合の相続方法:単純承認

単純承認とは、亡くなった被相続人が所有していた財産すべてを相続する方法です。 

単純承認は、とくに申立てなどを行う必要はありません。相続人となったときから3か月以内に相続手続きを行うか、または限定承認や相続放棄の申立てを行わなければ、基本的に限定承認されたとみなされ、すべての財産を相続する権利および義務が発生します。 

プラスの財産しかない場合や、マイナスの財産よりもプラスの財産のほうが多いことが明らかな場合には、基本的に単純承認の方法が取られます。マイナスの財産が多くて対応に迷っている場合にも、そのまま3か月間何もしなければ相続したとみなされるため、単純承認以外の方法を検討する場合は早めの対応が必要です。 

2. 借金が多い場合の対処法1:限定承認

亡くなった被相続人が多額の負債を抱えていたとき、まず考えられる対処法として限定承認があげられます。 

限定承認は、被相続人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産の返済を行う方法です。マイナスの財産がどれだけあるか分からず不透明な場合など、限定承認の方法を行えば債務の返済はプラスの財産の範囲内で良く、安心できます。 

相続財産に自宅などの必要財産が含まれる場合など、手放さずに済む点も限定承認を行うメリットです。手続きのうえでは限定承認でも競売にかける必要はありますが、限定承認の場合は先買権が認められています。先買権とは、相続人が必要な財産を優先的に落札できる権利です。 

ただし、限定承認は相続人全員が同意しなければなりません。相続人が多いケースなど、3か月以内に相続人全員の意見をまとめる必要があります。家庭裁判所で行う手続きも煩雑で、清算までの間に広告・競売といった手続きを行わなければならず、一般的ではありません。 

3. 借金が多い場合の対処法2:相続放棄

相続放棄とは、被相続人に負債が多いことが明らかな場合などに、家庭裁判所に申立てを行って相続権のすべてを放棄する方法です。 

相続放棄は、相続が開始されたと知った日から3か月以内に手続きを行わなければなりません。「3か月以内の期間」の開始日は亡くなった日とは限らず、亡くなったことを知った日や、前順位の相続人が相続放棄を行って自分に相続人の立場が回ってきたことを知った日などがあります。 

また、相続放棄を行う場合は相続財産のすべてを放棄しなければならず、一部の財産だけ相続することはできません。3か月以内に相続放棄の手続きを行うことが難しいときは「相続放棄の期間の伸長の申立」を家庭裁判所に対し行うこともできます。 

相続財産について相談するには

亡くなったご家族の相続人となった場合など、被相続人から財産状況などを聞いていなかったのであれば、相続人が自力で財産調査を行うことは難しいケースもあります。自力で調査を行う場合でも、調査に時間を要したり不安になったりすることもあるでしょう。そこで、相続財産について不安があったり不透明な財産があったりしたときには専門家に相談することをおすすめします。 

相談するときは、税理士事務所や弁護士事務所が最適です。相続財産を確認してもらえるだけでなく、財産状況を見てどうするべきかアドバイスを受けられます。相続税の申告を行うにあたり、申告書の書き方など簡単な質問であれば、税務署で対応してくれることもあります。

まとめ

相続財産は広範囲にわたるうえに、相続税の対象となるものや対象外のものなど、判別が複雑なものも多くあります。ご家族が亡くなったあとからでは調査が難しくなり、相続人となる人に負担を与えてしまいます。そのため、ご家族の間で事前に財産を確かめておくことが大切です。 

相続財産の把握は、プラスの財産だけでは不十分です。マイナスの財産も把握しておけば、事前の対策も立てやすくなります。もしも財産を把握できないまま亡くなってしまった場合など、詳しい調査方法や手続きは税理士や弁護士に相談をした方がスムーズに行えるでしょう。 

相続手続きについて迷った場合など、ANAファシリティーズでは無料相談を受けられます。不安解消のため、活用してみてはいかがでしょうか。



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