財産を相続する際は税金が発生します。相続税の基礎控除額は2015年を境に改正され、納税者は2倍近くに増えました。誰でも課税対象者になる可能性があるため、相続税の計算は事前に行っておくのが賢明です。
また、効果的な節税のためには、財産を所有している方が生前に対策を行わなければなりません。亡くなってから相続税を安くすることはできないので、前もって対策方法を押さえておく必要があります。
この記事では、相続税の計算方法と節税方法について詳しく解説します。
相続税の納税者について
相続税の納付義務はどのような方に生じるのでしょうか。ここでは、相続税の納税対象者について解説します。また、平均納税額と納税者数を通して、相続税について理解することの重要性を知っておきましょう。
遺産を相続した人が対象
相続税は、遺産を相続した人すべてが課税対象者となります。このとき、家族などの法定相続人だけでなく、財産を相続した人すべてに納税義務が生じるので注意が必要です。具体的には、遺贈の受遺者や死因贈与の受贈者、法人などがあげられます。
遺贈とは、故人が遺言書によって法定相続人以外の方に財産を譲る意思を示しており、その通りに相続が行われることです。遺贈の受遺者は納税義務者であり、金額に応じて申告と納税を行う必要があります。
死因贈与とは、生前に契約を交わした相手に財産が引き継がれることです。遺言で一方的に財産を譲ることはできず、生前の契約・合意が必要となる点が遺贈と異なります。このような形で遺産を相続した場合も法律に従って納税しなくてはなりません。
法人については通常法人税の対象となりますが、個人とみなされる場合は相続税の納税義務者となります。個人とみなされる法人とは、「持分の定めのない法人」または「人格のない社団・財団」のことです。
相続税の平均納税額と納税者数
財務省の発表によると、2019年の平均納税額は約1,714万円です。また、納税者数は25万~26万人程度で推移しています。1年間にこれだけの人数が相続税を納めたと考えれば、決して珍しいケースではないことがわかるでしょう。2020年に相続税が課された被相続人、すなわち死亡者の割合は全体の8.8%です。約12万人に約1,714万円もの相続税が課せられており、軽視できる数字ではありません。
参考資料▼
・相続税を払う人はどれくらいいる?(公益財団法人生命保険文化センター)
相続税の計算方法
相続税の金額は、以下の流れで算出します。
- 1.課税遺産総額を算出する
- 2.基礎控除額を差し引く
- 3.法定相続分で分ける
- 4.各人の課税遺産総額に税率をかけ、控除額を差し引く
- 5.税額から控除を差し引く
ここからは、各ステップについて詳しく解説します。
課税遺産総額を算出する
相続財産に含まれるものは以下の通りです。
種別 |
対象 |
相続財産 |
現金、預貯金、貸付金債権、投資信託、社債・株式、不動産(土地・家屋)または不動産の上に存する権利、動産(自動車・貴金属・機械器具など)特許権、著作権、その他の営業上の権利など |
みなし相続財産 |
生命保険金、生命保険契約に関する権利、退職手当金・功労金、定期金に関する権利、保証期間付定期金に関する権利、契約に基づかない定期金に関する権利、その他の利益の授受、信託に関する権利など |
特定の贈与財産 |
贈与時に贈与税を納付した者の相続が発生した際には、その贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算して計算した相続税から、贈与時に納付した贈与税を控除した金額。また、相続等によって財産を取得した人がその相続の開始前3年以内に贈与を受けている場合、その人の相続税の課税価格に加算する。 |
相続税評価額は「相続開始時点における換金価値」が原則ですが、実際は財産の種別ごとに異なります。たとえば、建物の相続税評価額は固定資産税評価額と同じです。ただし、賃貸中の場合は貸家権割合を考慮して算出するため、一般的な建物よりも評価額が安くなります。土地の評価額はとくに計算が難しく、路線に面する土地の価格が決まっている場合に適用される「路線価方式」、もしくは固定資産税評価額に一定の倍率をかける「倍率方式」で算出されます。
基礎控除額を差し引く
次に、課税遺産総額から基礎控除額を差し引きます。基礎控除額は、「3,000万円+(法定相続人の人数)×600万円」の式から算出されます。たとえば、法定相続人が4人の場合、基礎控除額は5,400万円です。すなわち、課税遺産総額が5,400万円を下回れば、相続税は生じないことになります。
法定相続人の人数に対する基礎控除額の一覧表は以下の通りです。
法定相続人の人数 |
相続税の基礎控除額 |
1人 |
3,600万円 |
2人 |
4,200万円 |
3人 |
4,800万円 |
4人 |
5,400万円 |
5人 |
6,000万円 |
6人 |
6,600万円 |
課税遺産額から差し引けるもの
債務は課税遺産総額から差し引けます。課税遺産総額から差し引ける債務としては、借入金や未払医療費、クレジットカードの使用金額などが挙げられます。債務と同じように控除できるのが葬式の費用です。ただし、差し引けるのは葬儀にかかった費用のみで、初七日などの法要の費用は控除対象に含まれないので気をつけましょう。
なお、生命保険金にも非課税枠が設けられています。生命保険金のうち、非課税となる金額は「法定相続人の人数×500万円」です。つまり、生命保険金が3,000万円で法定相続人が4人の場合、非課税枠が2,000万円となるため、実質的に相続税の課税対象となる金額は1,000万円です。
法定相続分で分ける
課税遺産額を算出したら、法定相続割合で分割します。相続人には優先順位が決まっており、決められた割合で遺産を分けなくてはなりません。まず、配偶者がいる場合、配偶者は常に相続人の1人となります。子や親、兄弟がいる場合、配偶者は法定相続割合に従って遺産を分け合うことになります。配偶者を除いた親族の相続優先順位は、子が第1位、親が第2位、兄弟が第3位です。配偶者がいる場合の法定相続割合を以下の表で示します。
相続人の状況 |
配偶者 |
子 |
親 |
兄弟 |
配偶者のみ |
1 |
- |
- |
- |
子がいる |
1/2 |
1/2 |
- |
- |
親がいる |
2/3 |
- |
1/3 |
- |
兄弟がいる |
3/4 |
- |
- |
1/4 |
子や兄弟が複数いる場合、割り当てられた遺産を均等に分けます。たとえば、配偶者がいて子が4人いる場合、配偶者は1/2の、子はそれぞれ1/8ずつの遺産を受け取ることになります。配偶者がいない場合、最も優先順位の高い親族がすべての遺産を受け取ります。
各人の課税遺産総額に税率をかけ控除額を差し引く
各相続人の課税遺産額を算出したら、金額に応じた税率をかけ、その数字から控除額を差し引きます。相続税では、所得税と同じように金額に応じて税率も上がる累進課税制度を採用しています。
法定相続分の取得金額に応じた相続税の税率と控除額は以下の通りです。
法定相続分の取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 |
10% |
- |
3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円超 |
55% |
7,200万円 |
仮に8,000万円の遺産を相続する場合、税率は30%、控除額は700万円となり、相続税額は「8,000万円×30%-700万円」で1,700万円となります。
参考資料▼
税額に控除を差し引く
相続税には控除が適用される場合があります。主な税額控除は以下の6つです。
- ・贈与税額控除
- ・配偶者控除
- ・未成年者控除
- ・障害者控除
- ・相次相続控除
- ・外国税額控除
贈与税額控除とは、亡くなる前の3年間に贈与税を納めている場合、相続税額から贈与税額をマイナスできる制度のことです。これは、相続税と贈与税を二重に課すことを避けるための措置です。被相続人が亡くなる前3年以内に贈与を受けて贈与税を納めた人は、相続税が安くなります。
次に、配偶者の相続分のうち、1億6,000万円までは課税されないという制度が配偶者控除です。亡くなった方の配偶者であれば誰でも受けられるので、相続税の税額控除では最も頻繁に適用されます。この制度は、残された配偶者の生活を守る目的で設けられました。
未成年者控除とは、未成年の相続人が年齢に応じた額の控除を受けられる制度です。相続人が未成年である場合、「成人するまでの年数」×10万円が相続税から減額されます。障害者控除は、相続人が障害者である場合に一定額の控除が受けられる制度です。基本的に、控除額は「85歳ー障害者の年齢」×10万円の式から算出されます。
相次相続控除は、被相続人が10年以内に相続税を支払っていた場合、一定の税額控除が受けられる制度です。短期間で相続税の負担が生じた場合に、税負担の偏りを軽減する目的で設けられました。また、亡くなった方の財産が外国にあり、外国で相続税が課せられた場合は、外国税額控除が受けられます。
なお、これらの税額控除は条件に当てはまれば併用可能です。複数の控除を利用すれば大幅に相続税額を抑えられるでしょう。
相続税を大幅に安くする方法
最後に、相続税を大幅に安くする4つの方法を紹介します。
生前贈与を行う
生前贈与を行うことで財産が減るため、亡くなったときの課税遺産総額を下げられます。ただし、年間110万円以上の贈与に関しては贈与税が課せられるため、注意が必要です。また、相続発生から3年以内に贈与した財産については、相続税の課税対象となります。
生前贈与では相続時精算課税制度を利用するのも一つの方法です。この制度を利用して贈与された財産は相続税の課税対象となりますが、2,500万円までの贈与であれば贈与税が控除されます。相続人に多額の財産を譲っても、贈与した時点における税負担を軽くできます。
現金を不動産へ
現金を不動産にする方法も相続税の節税に効果的です。現金の場合は金額にそのまま税金が課せられますが、不動産であれば評価額を算出したうえで税額が求められます。一般に、不動産の評価額は実際に取引される金額よりも安くなっています。そのため、不動産を活用すれば課税遺産総額を抑えられるのです。
借入してアパートを建築
なるべく現金を使いたくない場合は、借入して不動産を購入する方法でも節税効果が得られます。借入した金額は債務とみなされ、課税遺産総額から控除されるため、効果的に相続税を抑えられるでしょう。ただし、時間が経つにつれて借入金額が減り、家賃収入が増えるため、アパートを建築するタイミングには注意が必要です。
養子縁組を行う
養子縁組を行えば、法定相続人の数が増えて相続税の基礎控除額を増やせます。課税遺産総額を圧縮したい場合に有効な方法だと言えるでしょう。
養子縁組には、養子が実の親との関係を維持する「普通養子縁組」と、実の親との関係を断ち切る「特別養子縁組」がありますが、どちらも一定の条件を満たす必要があります。たとえば、普通養子縁組を行うためには養子が養親より年下でなくてはなりません。
また、相続人に含められる養子の人数には限りがあります。被相続人に実子がいる場合は1人まで、いない場合は2人までとなっているので気をつけましょう。
まとめ
相続税は計算が複雑で、課税遺産総額を算出したうえで控除なども考慮しなくてはなりません。自分で計算することもできますが、細かな計算は税理士に確認してもらうべきだと言えます。また、相続税の申告書には、相続税の計算をしてもらった税理士名を記載する欄があります。もちろん任意ではありますが、正しい計算を行う必要があるため、あらかじめ相談しておくのが賢明です。
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